症状・特徴
アトピー性皮膚炎とは、アレルギーを起こしやすい体質の人や、皮膚バリア機能が弱い人に多くみられる皮膚の炎症を伴う病気で、皮膚バリア機能の遺伝的異常により皮膚に炎症が起きやすくなります。家系内で遺伝することが多く、患者様やその家族の多くが喘息、花粉症を併発していることがあります。アトピー性皮膚炎の大半は5歳までに発症し、小児期に生じたアトピー性皮膚炎はしばしば成人期までに消失したり、大幅に症状が軽減されます。一方、アトピー性皮膚炎が成人期後期や、高齢になってから発症することもあります。
主な症状は「湿疹」と「かゆみ」で、良くなったり悪くなったりを慢性的にくり返すのが特徴です。一般的に、6カ月以上(乳幼児では2カ月以上)続くと慢性と判断します。かくことで湿疹が悪くなる悪循環を生じます。また、かゆみがひどくて眠れないこともあります。症状は「かゆみがある」「特徴的な湿疹と分布」「繰り返す」という特徴があります。
湿疹の特徴
- 赤みがある
- ジクジクしてひっかくと液体が出てくる(伝染性膿痂疹)
- 皮膚がむける
- 長引くとゴワゴワ硬くなって盛り上がる(苔癬化)
- 左右対称にできる
- 頭皮、額、眼まわり、口囲、耳まわり、首、わき、肘膝関節の内側、手足などに出やすい
湿疹の特徴
出展:アトピー性皮膚炎の症状 https://www.allergy-i.jp/kayumi/atopic/about/
原因
アトピー性皮膚炎の原因はいくつかの要素があります。「皮膚バリア機能の低下」により皮膚が過敏となり、皮膚の被刺激性を亢進させる他,抗原感作や炎症を生じやすくなります。また、抗原の皮膚への侵入により過剰な免疫応答によりアレルギー反応を引き起こし炎症が助長されます。
これらの要素にさらに「かゆみ」が関与し、互いに関連しながら発症しています。
皮膚のバリア機能
皮膚は、表面の皮脂膜やその下の角質細胞、角質細胞間脂質などがバリアの役割を担っており、外部の様々な異物が皮膚の中に侵入するのを防いだり、体内の水分の蒸発による皮膚の乾燥を防いでいます。アトピー性皮膚炎では角質細胞間の脂質が低下し、もともと乾燥しやすい体質に加え、この「皮膚のバリア機能」が低下しているため、異物が容易に皮膚の中まで入りこみやすく、炎症が起こって慢性的に痒みや湿疹などの症状が現れます。「皮膚のバリア機能」はもともとの体質もありますが、皮膚をひっかいたりこすったりといった物理的な刺激や、汗、石鹸、化粧品、紫外線などによっても低下します。
アトピー性皮膚炎の治療法
アトピー性皮膚炎の治療は塗り薬や飲み薬、注射剤、紫外線を使った治療などがあります。また、低下した皮膚のバリア機能を回復させるために保湿剤によるスキンケアを行い、補助的な治療としてかゆみを抑えるための飲み薬があります。
外用療法
保湿剤
保湿外用薬(保湿剤・保護剤)の使用は,アトピー性皮膚炎で低下している角質層の水分含有量を改善し,皮膚バリア機能を回復・維持することで,アレルゲンの侵入予防と皮膚炎の再燃予防,痒みの抑制につながります。皮膚の乾燥は症状を悪化させたり治りにくくさせたりするので、保湿剤でうるおいを保つことが大切です。水分やセラミドを補うもの、油分で皮膚をおおって水分の蒸発を防ぐものなど、いくつかのタイプがあります。剤形にもクリーム、ローション、軟膏、フォーム剤などがあり使用感が異なります。
・抗炎症外用薬:炎症・かゆみを抑える塗り薬には4種類あり、過剰な免疫反応を抑えます。症状がでているところに薬を塗り、炎症(湿疹)やかゆみを抑えます。
ステロイドの塗り薬
ステロイド外用は、アトピー性皮膚炎における基本治療薬の一つです。ステロイドというと懸念される方がいらっしゃるかもしれませんが、外用薬のステロイドは吸収率が低くとても安全な薬剤です。またステロイドには強さのランクがあり、外用する部位や重症度によって適切なランクのステロイドを選択することが重要となります。しかし、必要十分な量を使用しなければ効果が乏しいこともあり使用には医師の用量用法を守る必要ことも大切で、プロアクティブ療法などでステロイドの使用量を抑える方法も有効な外用方法です。
カルシニューリン阻害薬の塗り薬(プロトピック軟膏(タクロリムス軟膏))
ステロイド外用よりも、即効性の効果は落ちますが、ステロイドの総使用量を減らすことや、ステロイドの副作用を気にせず使用できる薬剤です。顔面・頸部の皮疹に対して高い適応のある薬剤として位置づけられています。使用時、最初はヒリヒリとした刺激感がありますが、 これは薬効の一つで、悪化を示唆する所見ではなく刺激感を起こす物質を排出させているからです。数週間程度使用を続けると、ヒリヒリした刺激を感じなくなります。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の塗り薬(コレクチム軟膏(デルゴシチニブ))
コレクチム軟膏とは「JAK阻害薬」に分類される薬剤で、比較的新しい塗り薬です。コレクチムは使用時の刺激感が生じにくく、その他の副作用も他剤に比べて少ないです。ただし、粘膜や皮膚がジュクジュクしていたりただれているところ、とびひやヘルペスなど感染症を起こしている部分には塗らないでください。コレクチム軟膏には0.25%と0.5%の2規格があり、6ヶ月以上の患者様から使用が可能です。
(*低出生体重児、新生児、6ヵ月未満の乳児を対象に、有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない)
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬の塗り薬
プロアクティブ療法
アトピー性皮膚炎は増悪と寛解を繰り返すことが特徴で、見た目は良くなっていても皮膚内部に炎症が残っているため再燃しやすいのです。頻回に再燃をくり返す場合、症状改善時に治療を中止し、再燃する毎に治療を再開する「リアクティブ療法」をおこなうのではなく、抗炎症治療で症状を抑えた後も、保湿剤などのスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムスなどの非ステロイド性抗炎症外用薬を定期的(週2~3回)に塗って症状が抑えられた状態を維持する「プロアクティブ療法」を行います。結果的にステロイド外用薬の使用量も少なくて済むため外用薬の副作用の心配も減ります。
抗ヒスタミン薬の飲み薬(補助療法)
アトピー性皮膚炎はかゆみがつきものの疾患です。そのため、痒みを抑えることも必要な治療の一つであり、痒みの症状が強い方は抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬と言われる内服薬を使用することが薦められます。しかし抗ヒスタミン薬単剤での治療効果は乏しく、あくまで補助薬であり、抗炎症外用薬を使用することなく抗ヒスタミン薬のみで治療することは推奨されません。花粉症の治療でもよく使用され、デザレックス・ビラノア・ルパフィン・タリオン・ザイザル・アレロックなどがあります。
全身療法(飲み薬や注射、紫外線を使って行う治療)
紫外線療法
紫外線療法は,抗炎症外用薬や抗ヒスタミン薬,保湿外用薬などによる治療で軽快しない例やコントロールできない例,従来の治療で副作用を生じている例に考慮される治療法に位置づけられています。紫外線療法は保険適応での治療法です。治療、週一回をペースに継続して行う必要がありますが、通院できる方には副作用も少なく有効的な治療法であり、ご希望の方はご相談ください。
炎症やかゆみを抑える飲み薬
カルシニューリン阻害の飲み薬(ネオーラル(シクロスポリン))
2008年からネオーラルが16歳以上のアトピー性皮膚炎患者さんに対して使用可能になりました。既存の治療に抵抗性の最重症例に使用します。間欠的に使用してもよいですが、使用開始から8-12週(3ヵ月)以内を目安に投与され、長期投与が必要な場合は 2 週間以上の休薬期間をはさむ事が必要です。基本的には短期的に使用するべきもので、使用中は腎障害や高血圧,感染症などに注意し定期的に薬剤血中濃度を測定する必要があります。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害の飲み薬(オルミエント(バリシチニブ)、リンヴォック(ウパダシチニブ)、サイバインコ(アブロシチニブ))
今までの内服薬よりも効果的な治療薬です。今までは膠原病などで使用されていましたが、新たにアトピー性皮膚炎に適応が拡大されました。
副作用の観点から定期的な検査(採血・画像検査など)が必要であり、大学病院・総合病院などのアトピー性皮膚炎専門外来での使用が推奨されます。当院ではそういった病院と連携して治療を行っております。
注射剤 : 生物学的製剤(デュピクセント(デュピルマブ)、ミチーガ(ネモリズマブ)、アドトラーザ(トラロキヌマブ))
スキンケア、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、紫外線療法などの治療でもコントロールが難しい成人の重症の患者さんに、アトピー性皮膚炎の悪化因子となるサイトカインという物質をブロックすることで症状を改善させる生物学的製剤が、2018年から保険適用となりました。アトピー性皮膚炎では2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応が深く関係しており、Th2細胞から産生されるIL-4やIL-13などのサイトカインは、皮膚の炎症や皮膚バリア機能、かゆみに関与することが知られています。デュピクセントはIL-4とIL-13の働きを直接抑える新しいタイプの薬剤です。2022年には抗IL-31受容体A(IL31RA)抗体であるミチーガがアトピー性皮膚炎のそう痒に保険適用され,また抗 IL-13 抗体であるアドトラーザが保険適用されたました。既存の治療薬と比較して効果の高い薬剤で、これまでさまざまな治療を行っても症状が安定しない患者さんや、重症度の高い患者さんは医師にご相談ください。
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